企業はなぜ似ていくのか。そして、どこをずらすべきか
― 制度的同型化から考える競争戦略 ―
競合他社の取り組みを参考にすることは、企業経営では珍しいことではありません。
成果を上げている企業の商品やサービスを研究する。新しいシステムが普及すれば自社でも導入する。業界で新しい取り組みが始まれば、自社でも対応を検討する。「他社の真似をしてはいけない」と言われることもありますが、本当にそうでしょうか。すでに他社が試し、一定の成果を出している方法があるのであれば、それを参考にすることには合理性があります。すべてをゼロから考える必要もありません。むしろ興味深いのは、企業が他社を参考にしながら変化していく結果、同じ業界の企業が徐々に似ていくことです。
この現象を考える上で参考になるのが、DiMaggio & Powell(1983)が提示した「制度的同型化」という考え方です。
なぜ、競争している企業が似ていくのか
競争について考えるとき、私たちは一般的に「企業は競争することで違いをつくる」と考えます。他社より良い商品をつくる。異なるサービスを提供する。独自の技術を開発する。競争とは差別化を促すものだと考えるのが自然です。
しかし、DiMaggio & Powell(1983)が着目したのは、むしろ反対の現象でした。同じ組織フィールドに属する組織は、時間の経過とともに似ていくことがあります。
彼らは、その背景に大きく三つの同型化のメカニズムがあると整理しました。
一つ目が「強制的同型化」です。
法律や行政による規制、取引先からの要求、社会から求められる規範などによって、企業が似た制度や仕組みを持つようになることです。例えば法改正によって新たな管理体制が必要になれば、同じ業界の企業は似た対応を取ることになります。大手企業が取引条件として一定の品質管理や情報セキュリティを要求すれば、取引先も同様の仕組みを整えていきます。
二つ目が「模倣的同型化」です。
将来が不透明で、何が正解なのか分からないとき、企業は成功しているように見える企業を参考にします。ある企業がDXで成果を上げたと聞けばDXに取り組む。生成AIが注目されればAIを導入する。競合企業が新しいサービスを始めれば、自社でも似たサービスを検討する。不確実性が高いほど、「うまくいっている企業を参考にする」という判断には合理性があります。
三つ目が「規範的同型化」です。
専門職や教育などを通じて、組織に共通する考え方や方法が広がっていくことです。同じような教育を受けた経営者や専門職が、同じ経営理論、同じフレームワーク、同じ管理手法を企業へ持ち込めば、組織の考え方や制度も似ていきます。つまり、企業が似ていくのは、必ずしも「考えていないから」ではありません。むしろ、それぞれの企業が環境へ適応しようと合理的に判断した結果として、似ていくことがあります。
真似することは、本当に悪いのか
ここからは、制度的同型化の議論を企業のマーケティングへ少し広げて考えてみます。私は、企業が他社を真似すること自体に大きな問題があるとは考えていません。例えば、優れた顧客管理システムがあれば導入を検討してよいでしょう。他社で効果が確認されている営業手法があれば参考にしてもよいでしょう。競合の商品構成、価格、販売チャネル、Webサイトなどを研究することも必要です。戦略についても同じです。成功している企業の戦略を参考にしてはいけない理由はありません。
むしろ問題になるのは、どこまで真似し、どこを変えるのかを考えないことです。
同じ業界に属し、同じ顧客を相手にしていれば、競合企業と似た商品やサービスになることは当然あります。市場そのものが求めている最低条件もあります。そこで無理に「他社とまったく違うこと」を目指せば、顧客が求めていない独自性をつくることにもなりかねません。差別化とは、すべてを違うものにすることではないはずです。
重要なのは「どこを少しずらすか」
では、何をずらせばよいのでしょうか。その起点になるのは、やはり顧客だと思います。同じ商品カテゴリーであっても、「誰」を顧客とするかによって戦略は変わります。さらに、同じ顧客を対象としていても、その顧客が「何を成し遂げたいのか」、つまりどのようなジョブを捉えるかによって、提供する価値は変わります。
そして、その市場をどのように細分化し、どの市場を選び、その中でどのような位置を取るのか。STPの考え方を使えば、同じ市場にいる競合企業と完全に異なる戦略をつくらなくても、少し違うポジションを取ることができます。
例えば、競合企業と同じ「高品質」という価値を提供していたとしても構いません。
しかし、一方は最高性能を求める大企業を対象とし、もう一方は故障による事業停止を避けたい中小企業を対象とするのであれば、「高品質」が果たす役割は異なります。
商品そのものは似ていても、誰の、どのような課題を解決するのかが違えば、顧客から見た意味は変わります。
価格を少しずらすこともできます。
販売方法を変えることもできます。
サービスの範囲を変えることもできます。
対象とする顧客を変えることもできます。
顧客が抱えているジョブの捉え方を変えることもできます。
すべてを変える必要はありません。
一つか二つ、意図的にずらせばよいのです。
同型化した上で、ずらす
制度的同型化という言葉には、「企業が画一化してしまう」という否定的な印象を持つかもしれません。しかし、実務ではもう少し柔軟に捉えてもよいと思います。同じ市場で事業をしている以上、似る部分があるのは当然です。社会から求められる制度に対応し、業界の標準を取り入れ、成功している企業から学ぶ。そこまで無理に独自である必要はありません。むしろ、市場に存在する成功パターンを理解していなければ、どこを変えるべきかも分かりません。
重要なのは、同型化を避けることではなく、同型化した上で、どこをずらすのかを選択することです。その選択を考えるとき、「競合と何が違うか」から始めると、単なる違い探しになりやすくなります。それよりも、誰の、どのようなジョブを解決するのか。
そこから市場を分け、対象を選び、ポジションを決めていく方が、違いには意味が生まれます。
独自性とは「全部違うこと」ではない
企業経営では、「独自性」や「差別化」という言葉が頻繁に使われます。しかし、すべてを独自にする必要はありません。競合の商品を研究してもよい。成功しているビジネスモデルを参考にしてもよい。業界標準の仕組みを導入してもよい。場合によっては、戦略そのものを参考にしてもよいと思います。その上で、自社の顧客、自社の資源、自社が置かれている市場を見ながら、どこを少しずらすかを考えます。
DiMaggio & Powellが示したように、組織が似ていくことには構造的な理由があります。だからこそ、「他社と似ていること」を恐れる必要はないのかもしれません。むしろ問うべきなのは、なぜ、ここは他社と同じなのか。そして、なぜ、ここだけは少し違うのか。その二つを説明できることが、戦略を考える上では重要なのではないでしょうか。
参考文献
DiMaggio, P. J., & Powell, W. W. (1983). The iron cage revisited: Institutional isomorphism and collective rationality in organizational fields. American Sociological Review, 48(2), 147–160.
