なぜ感覚評価では広報は失敗するのか|属人化の構造的問題

6. なぜ感覚評価では失敗するのか ― 広報が属人化しやすい構造的理由

広報やマーケティングの活動は、しばしば「センス」や「クリエイティブ」という言葉で片付けられがちです。「あの人は文章が上手い」 「あの担当者は顔が広い」「彼にはメディアとの人脈がある」「彼にはSNSでバズらせるセンスがある」。これは一見、強みに見えますが、経営の観点から見れば「成果の要因が特定の個人に依存している」という、極めて不安定な状態です。

なぜなら、その担当者が辞めてしまえば、メディアとのリレーションも、SNSのフォロワーとの関係性もノウハウも、すべて失われてしまうからです。これは明確な「経営リスク」です。

ここでは、なぜ広報活動が構造的に属人化しやすいのか。そのメカニズムを解明し、診断シートで測定する「再現性のある組織」への転換について説明します。

「人脈」と「キャラ」への過度な依存

広報が属人化するパターンには、大きく分けて2つの「個人の力」への依存があります。

1. メディア広報における「人脈(コネ)」依存
「あの記者は俺の飲み友達だ」といった個人的な関係性で記事化を狙うパターンです。 もちろん人間関係は大切ですが、「仲が良いから載せてもらえる」関係は、担当者が変わればリセットされます。また、メディア側もプロですので、ニュース価値のない情報を「情」だけで報じ続けることはできません。

2. SNS運用における「中の人(センス)」依存
「担当者のウィットに富んだ投稿」や「面白いキャラクター」で人気を得るパターンです。 これもうまくいっている間は良いですが、その担当者が異動・退職した瞬間、アカウントは「抜け殻」になります。後任者が同じノリを演じられず更新が止まる、あるいは無理に真似をして痛々しい投稿になり、ブランドを毀損するケースも後を絶ちません。

「個人の芸」から「組織の構造」へ

健全な発信活動に必要なのは、担当者の個人的な資質(人脈や面白さ)ではなく、「誰が担当しても、社会や顧客に価値ある情報を届けられる構造(WWH)」です。

  • 対メディア: 「コネ」で頼むのではなく、「社会性のあるネタ(WWH)」を構造的に提供し、メディア側から「取材したい」と思わせる。
  • 対SNS: 「個人の面白さ」でウケを狙うのではなく、「顧客の悩みに寄り添う有益な情報(WWH)」を一貫して発信し、ブランドへの信頼を積む。

診断シートが「個人の人脈数」や「SNSのバズ回数」ではなく、「コンテンツの質(Q4)」や「WWH(Q1)」を評価するのは、この「担当者が変わっても揺るがない構造」を持っているかを測るためです。

「基準」なき意思決定のコスト

数値化された評価基準(ものさし)を持たない組織では、意思決定のプロセスにおいて膨大な非効率が発生します。 例えば、新しい施策を決める会議で、以下のような現象が起きていないでしょうか。

  1. 判断基準の欠如: 「何が良い広報か」の定義がないため、議論が「個人の好み」や「主観」のぶつけ合いになり、時間が浪費される。
  2. 声の大きさによる決定: 論理的な根拠(WWHやCDP)がないため、最終的に「社長の思いつき」や「声の大きい人の感覚」で方針が決まってしまう。
  3. 一貫性の喪失: 担当者が替わるたび、あるいは上司が変わるたびに方針がブレ、いつまで経ってもブランドイメージが定着しない。

本診断シートが「WWHの定義(Q1)」や「外部評価(Q5)」を数値化するのは、こうした「主観による意思決定のブレ」を排除し、組織としての判断基準を統一するためです。

属人化を生む「部分最適」の罠

広報が組織の力にならないもう一つの構造的要因は、組織の「サイロ化(縦割り構造)」による部分最適です。

多くの企業では、各部門が異なるKPI(目標指標)を追っています。

  • 広報: メディア露出数(とにかく認知させたい)
  • マーケティング: リード獲得数(とにかく集客したい)
  • 営業: 受注数(とにかく売りたい)

それぞれの部門が自身のKPIだけを最大化しようとすると、顧客体験(CDP)は分断されます。広報は「露出さえすればいい」、営業は「今すぐ売れればいい」と考え、企業として発信するメッセージ(WWH)に乖離が生まれます。

この状態では、広報担当者がどれだけ優秀でも、その成果は他部門に接続されず、企業全体の「信頼資本」として蓄積されません。これが、努力が成果につながらない構造的な原因です。

「暗黙知」を「形式知」へ

私の著書で言及している「水平統合型広報」の目的は、担当者の頭の中にある「センス(暗黙知)」を、組織として運用可能な「構造(形式知)」へと変換することです。

診断シートの各設問は、この変換レベルを測る指標となっています。

  • Q4. コンテンツの質: 「文章の上手さ」ではなく、「顧客の問題解決(What)と解決策(How)が明記されているか」という構造的要件を満たしているか。
  • Q7. 社内浸透: 特定の担当者だけでなく、社員全員が自社の強み(WWH)を語れる状態にあるか。

個人のスキルに依存する「Art(芸術)」ではなく、誰がやっても一定の成果が出る「Science(科学)」へ。診断シートは、貴社の広報活動を科学的な管理下におくためのアセスメントツールです。

経営判断のための「事実」を見る

経営に必要なのは、「頑張っている」という報告ではなく、「機能しているか」という事実です。

本診断シートの結果は、貴社の情報発信が「個人の頑張り」で支えられているのか、それとも「組織の構造」として機能しているのかを客観的に示します。 スコアが低い項目は、担当者の能力不足ではなく、「組織として仕組み化できていない箇所」を示唆しています。

感覚による評価から脱却し、構造的な課題(ボトルネック)を特定すること。それが、再現性のある成長への第一歩です。


本資料は、黒木勝巳(InShift.llc)による研究・実務体系およびデータ分析に基づき制作されています。企業広報および経営における信頼形成とその効果測定に関する考察を整理したものです。
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