その「強み」は、選ばれる理由か、選択肢に入るための条件か
― Hill(2000)のオーダーウィナーとオーダークオリファイアから考える ―
企業の強みを尋ねると、「品質が高い」「納期を守る」「丁寧に対応する」「長年の実績がある」といった答えが返ってきます。
いずれも企業経営にとって重要な要素です。
しかし、それらは本当に、顧客がその会社を選ぶ理由になっているのでしょうか。
競合企業も同じ水準を満たしているなら、顧客にとっては「優れているから選ぶ理由」ではなく、「満たしていなければ候補から外す条件」になっているかもしれません。
企業が考える強みと、顧客が企業を選ぶ理由は、必ずしも一致しません。
この違いを考える上で参考になるのが、Terry Hillが製造戦略研究の中で提示した、Order WinnerとOrder Qualifierという区別です。
選択肢に入る条件と、選ばれる理由
Hill(2000)は、市場で求められる競争要因を、Order QualifierとOrder Winnerに分けて捉えました。Order Qualifierは、顧客から取引候補として検討されるために、一定水準を満たす必要がある条件です。これに対してOrder Winnerは、条件を満たした複数の候補の中から、実際に受注を獲得するための要因です。
Hillの議論は、単に商品の特徴を分類するものではありません。市場が求める条件を明らかにし、それに合わせて製造や投資の優先順位を決めるための枠組みです。つまり、顧客の選択基準と、自社内部の資源配分を接続する考え方といえます。
例えば、ある企業が部品の発注先を選ぶとします。必要な品質基準を満たしていること、法令に適合していること、一定の供給能力があることは、取引候補に入るための条件になるでしょう。一方で、仕様が固まる前から技術提案を受けられること、急な設計変更へ対応できること、他社より短い納期で供給できることなどが、最終的な発注先を決める理由になる場合があります。前者がOrder Qualifier、後者がOrder Winnerです。
どれほど高い能力を持っていても、顧客がそれを「できていて当然」と見ているなら、その能力だけでは受注を獲得できません。
「高品質」は、強みなのか
製造業では、「高品質」が自社の強みとして挙げられることが少なくありません。しかし、顧客が一定の品質水準を取引の前提としているなら、高品質であることはOrder Qualifierです。品質が基準を下回れば候補から外れますが、基準を満たしたからといって、必ず選ばれるわけではありません。
一方、品質の意味をもう少し具体的にすると、役割が変わることがあります。例えば、「故障が少ない」だけでなく、「故障した際に全国どこでも短時間で修理できる」「過去に納入した古い製品にも部品を供給できる」といった能力が、顧客の事業継続にとって重要なら、それはOrder Winnerになり得ます。
同じ品質という言葉でも、顧客が何を評価しているのかによって、その機能は異なります。企業が「当社は高品質です」と表現するだけでは、顧客にとっての意味は分かりません。何が、どのような状況で、顧客の選択を左右するのかまで分解する必要があります。
BtoBでは「企業対企業」だけではない
BtoBになると、さらに複雑になります。
BtoB取引は「企業が企業を信頼する」と表現されることがありますが、実際には企業という一人の意思決定者が存在するわけではありません。製品を使用する人、購買担当者、部門責任者、経営者、場合によっては法務や財務など、複数の人が取引に関与します。そして、それぞれが同じ理由で相手企業を信頼しているとは限りません。
使用者にとって重要なのは、「本当に使えるのか」「トラブルなく動くのか」という能力かもしれません。購買担当者にとっては、「約束した価格や納期を守るか」という誠実性が重要になります。経営者にとっては、「この会社と取引して事業上のリスクはないか」という能力と誠実性の双方が重要になるでしょう。長期的な共同開発や協業であれば、「こちらの事情まで考えてくれるか」という善意の重要性も高まります。
したがってBtoBでは、
「取引先企業から信頼されているか」ではなく、「取引先の誰から、何について信頼されているか」と考えた方が、実態に近いのではないでしょうか。
製品開発改良の難易度と選ばれることは違う
企業は、自社で実現することが難しいものを「強み」と捉えがちです。高度な技術を持っている。手間のかかる工程を続けている。細かな仕様変更にも応じている。長い時間をかけて品質を高めてきた。こうした能力には、企業内部から見れば大きな価値があります。
しかし、実現が難しいことと、顧客がそれを理由に選ぶことは同じではありません。顧客が必要としていなければ、高度な性能は過剰品質になります。細かなカスタマイズに価値を感じない市場では、個別対応がコストや納期を悪化させる要因にもなります。
反対に、企業側では当たり前だと考えていることが、顧客にとって重要なOrder Winnerになっている場合もあります。相談への回答が早い。担当者が頻繁に変わらない。小さな発注にも対応する。顧客側の社内説明に必要な資料まで用意する。古い商品にも対応する。企業内部では日常業務の一部でも、顧客の不安や負担を大きく減らしているなら、それは選ばれる理由になり得ます。
強みは、企業がかけた労力の大きさでは決まりません。顧客の選択に、どの程度影響しているかによって決まります。
Order Winnerは、顧客によって変わる
Order WinnerとOrder Qualifierは、商品や企業に固定的に備わっている性質ではありません。誰を顧客とするのかによって変わります。
例えば、価格を最優先する顧客にとって、一定の品質はOrder Qualifierであり、低価格がOrder Winnerになるかもしれません。一方、製品の停止が事業全体へ大きな損失を与える顧客にとっては、価格は予算内に収まるためのOrder Qualifierにとどまり、保守体制や供給継続性がOrder Winnerになる可能性があります。
同じ企業、同じ商品であっても、顧客セグメントによって選択基準は異なります。ここで重要になるのが、STPやWWHです。誰を対象とするのか。その顧客は、どのような課題やジョブを抱えているのか。どのような価値を、どのような方法で提供するのか。
Order Winnerは、市場全体に共通する抽象的な「強み」ではありません。特定の顧客が、特定の購買状況で、その企業を選ぶ理由です。したがって、「当社のOrder Winnerは何か」と考える前に、「誰にとってのOrder Winnerなのか」を明確にする必要があります。
選ばれる理由は、時間とともに変わる
かつてOrder Winnerだったものが、競合の追随や技術の普及によってOrder Qualifierへ変わることもあります。Webサイトがあること、オンラインで予約できること、問い合わせへ迅速に返信することなどは、導入企業が少ない時期には差別化要因になったかもしれません。しかし、普及すれば「できていて当然」の条件になります。
一方で、社会や技術の変化によって、新しいOrder Winnerが生まれることもあります。環境対応、供給網の安定性、データ連携、生成AIへの対応なども、顧客や市場によっては選択基準になり得ます。ただし、流行しているからOrder Winnerになるわけではありません。顧客の意思決定に影響して初めて、選ばれる理由になります。
企業は一度決めた強みを固定化するのではなく、顧客が何を最低条件とし、何を比較基準としているのかを継続的に見直す必要があります。
広報で伝えるべきものも異なる
Order QualifierとOrder Winnerの違いは、広報や営業にも関係します。Order Qualifierは、顧客の不安を減らし、候補から外されないために示す情報です。許認可、品質管理、供給体制、導入実績、財務の安定性などが該当します。
一方、Order Winnerは、複数の候補を比較した際に、「この会社を選びたい」と判断する材料です。独自の技術、提案力、対応速度、特定分野への専門性、顧客への伴走力などが考えられます。
Order Qualifierだけを発信すれば、安心は得られても、他社との違いが見えない可能性があります。Order Winnerだけを強く訴えても、基本的な資格要件への不安が残れば、候補にさえ入りません。必要なのは、両者を混同せず、それぞれの役割に合わせて情報を示すことです。
外部からの承認も、役割は同じではない
この区別は、私が現在進めている、地方中小企業における社会関係資本、広報、外部からの承認と経済的成果との関係に関する研究でも、一つの補助線になっています。
企業が外部から得る評価や承認は、すべて同じ役割を果たすとは限りません。例えば、認証、表彰、公的機関との連携、メディア掲載などは、企業が一定の基準を満たしていることを示し、取引候補に入るための資格として働く可能性があります。一方、顧客からの紹介、口コミ、指名などは、複数の候補の中から実際に選ばれる理由として働く可能性があります。
ただし、どちらがOrder Qualifierで、どちらがOrder Winnerになるかは、業種、顧客、購買局面によって異なります。重要なのは、外部評価を一括りにせず、その評価が「候補に入るための条件」なのか、「最終的に選ばれる理由」なのかを考えることです。
強みは、顧客との関係の中で決まる
自社の強みを考えるとき、企業内部だけを見ても答えは出ません。その能力を顧客が必要としているのか。顧客はそれを最低条件と見ているのか。競合と比較した際に、選択を左右する要因になっているのか。この三つを確認する必要があります。
Order Qualifierがなければ、競争の入口に立てません。しかし、Order Qualifierを満たすだけでは、最終的には選ばれません。
企業に必要なのは、「強みをたくさん持つこと」ではなく、顧客にとって何ができていて当然で、何が自社を選ぶ理由なのかを見極めることです。
強みとは、企業が一方的に所有するものではありません。特定の顧客、特定の課題、特定の競争環境との関係の中で、初めて「選ばれる理由」になるのではないでしょうか。
参考文献
Hill, T. (2000). Manufacturing strategy: Text and cases (3rd ed.). Irwin/McGraw-Hill.
