そのKPIは、本当に成果につながっているか― 新制度論のデカップリングから考える「手段と目的」のずれ ―|黒木勝巳マーケティング・広報事務所【InShift】

そのKPIは、本当に成果につながっているか― 新制度論のデカップリングから考える「手段と目的」のずれ ―

企業のマーケティングや事業戦略を考える仕事をしていると、「どの市場を狙うのか」「競合とどう違いをつくるのか」という話になることがよくあります。

いわゆるポジショニングです。

私自身も、企業支援のなかでSTPや競合分析を使いながら、どこに機会があるのかを考えてきました。一方で、さまざまな企業に関わるなかで、次第に気になるようになったことがあります。市場として魅力的な場所が、その企業にとって本当に良い場所とは限らないのではないか。ということです。

制度が存在しても、現実とはつながらない

Meyer & Rowan(1977)は、組織が社会から正当な存在として認められるために、制度化された仕組みや構造を取り入れる一方、それらが実際の日常活動とは切り離されることがあると論じました。


これが、デカップリングと呼ばれる現象です。


例えば、企業が新しい方針や制度を導入したとしても、実際の業務は従来のままということがあります。「顧客第一」という理念を掲げながら、人事評価は短期売上だけで決まる、といった状態もその一例として考えられます。その後、Bromley & Powell(2012)は、デカップリングにはもう一つ重要な形があると指摘しました。方針と実践が離れるだけではありません。
実践そのものは存在しているにもかかわらず、その実践と最終的な成果との関係が切れている場合があります。彼らはこれを「means–ends decoupling」、すなわち「手段と目的のデカップリング」として整理しています。


この議論は、企業におけるKPI管理を考える上でも示唆的です。

KPIを達成しても、成果が出ない

例えば、BtoB企業が「新規案件の受注率を高める」という成果目標を持っていたとします。
そこで営業部門が「顧客訪問100件」をKPIに設定したとします。営業担当者は100件訪問し、KPIを達成しました。しかし、受注率は変わりませんでした。ここで「次は120件訪問しよう」と考えることもできます。


しかし、本当に問題なのは訪問件数なのでしょうか。


仮にその業界では、顧客側で仕様が固まる前に接点を持ち、自社の提案を設計条件に反映できるかどうかが受注を大きく左右するとします。そうであれば重要なのは、訪問した件数ではありません。仕様が決定する前に案件へ入れているかです。同じ100件の訪問でも、仕様決定後に100件訪問するのと、基本設計前に有望案件へ接触するのとでは、最終成果への影響は異なります。
にもかかわらず「訪問件数」だけを管理していれば、数字は達成されても成果は動かないかもしれません。


手段は実践されています。KPIも達成しています。それでも目的には到達しません。
これは、Bromley & Powellが示した手段と目的のデカップリングを、企業実務から考える一つの例といえます。

問題は「測りやすい数字」を測ってしまうことにある

KPI設計で陥りやすいのは、測定できる数字を先に探してしまうことです。訪問件数、電話件数、広告出稿数、記事本数、研修受講者数、会議開催回数。これらは測りやすい数字です。
しかし、測りやすいことと、成果を左右することは同じではありません。


例えばマーケティング部門がリード数、営業部門が商談数、開発部門が新製品数、製造部門が生産効率をそれぞれ追っていたとしても、それぞれの数字が最終的な経営成果まで一本の因果関係でつながっているとは限りません。


各部門にとって合理的なKPIが、会社全体から見れば必ずしも合理的ではないこともあります。ここで重要になるのが、成果に至るクリティカルパスです。ここでは、プロジェクト管理で用いられる狭義のクリティカルパスとは区別し、最終成果に至る因果関係の中で、特に成果を左右する一連の経路という意味でこの言葉を使います。

KPIの前に、クリティカルパスを考える

最終成果をKGIとして設定したとしても、そこから直接KPIを決めるべきではありません。先に考えるべきなのは、「何が変われば、その成果が変わるのか」という因果関係です。


先ほどの例であれば、受注率を上げたい。そのためには、有望案件で仕様決定前から関与できることが重要ではないか、と考えます。そうであれば、「基本設計前に接触できた案件の比率」を確認します。さらに、その数字を変えるために、重点顧客や設計事務所への接触方法を変えていきます。こうすると、


成果目標 → クリティカルパス → KPI → アクションというつながりが見えてきます。KPIとは、本来、目標そのものではありません。成果に至る重要な因果関係が機能しているかを確認するための観測点です。この順序を逆にしてしまうと、KPI達成そのものが目的になってしまいます。

「KPI未達」より「KPI達成なのに未達」を疑う

経営会議では、KPIが未達の場合には、その原因を詳しく検討します。一方で、KPIを達成している部門は「順調」と判断されやすいものです。しかし、むしろ注意が必要なのは、KPIを達成しているにもかかわらず、KGIが動いていない状態なのかもしれません。このとき、さらに活動量を増やしても結果が変わらない可能性があります。必要なのは、「もっと頑張ること」ではなく、KPIと成果との間に想定していた因果関係を見直すことです。


なぜ、この数字が上がれば最終成果が上がると考えたのでしょうか。


実際にその関係は確認できているのでしょうか。別の場所に、より大きく成果を左右するボトルネックはないでしょうか。こうした問いを繰り返すことで、初めてKPIは経営の数字になります。

KPI管理とは、因果関係を管理すること

KPIという言葉が普及したことで、多くの企業が数字を管理するようになりました。その一方で、数字を設定すること自体が目的化している場面も少なくありません。新制度論のデカップリングという視点から見ると、問題は制度やKPIが存在するかどうかではありません。


手段と目的が、本当に接続されているか


成果を決めるクリティカルパスを考え、その経路を観測するためにKPIを置き、数字が動かなければアクションを変えます。そして、KPIが動いても成果が変わらなければ、今度はクリティカルパスそのものを疑います。KPI管理とは、単に数字を追うことではありません。自分たちが考えた「成果が生まれる因果関係」が本当に正しいのかを、数字を使って確かめ続けることではないでしょうか。

参考文献

Meyer, J. W., & Rowan, B. (1977). Institutionalized organizations: Formal structure as myth and ceremony. American Journal of Sociology, 83(2), 340–363.
Bromley, P., & Powell, W. W. (2012). From smoke and mirrors to walking the talk: Decoupling in the contemporary world. Academy of Management Annals, 6(1), 483–530.

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