WWHを活用したマーケティング戦略:市場、問題、そして差別化
潜在層を顕在化させるマーケティング
STPとの違い
マーケティングの基本フレームワークとして、STP(Segmentation, Targeting, Positioning)が広く知られています。しかし多くの解説では、セグメンテーションを「自社にとって有利な切り口で市場を分ける」、ターゲティングを「自社にとって旨みのあるセグメントを選ぶ」と説明しており、すべてが「企業視点」になっています。
本来、Kotlerはセグメンテーションを「市場における異なるニーズを発見する」プロセスとしていました。しかし、その後の伝承の中で、ニーズの理解が「人口統計や規模で市場を切る」という機械的作業にすり替わってしまったのです。
本コラムで紹介するWWH(Who/What/How)は、Abell(1980)の事業定義フレームワークを起源とし、この問題に対する実践的な答えとなるものです。

WWHのフレームワーク
- 誰の(Who): 市場全体を指し、ターゲット層を含む広い概念です。市場規模、セグメント、購買行動などを基にターゲティングを行います。
- 何を(What): 消費者が持つ課題やニーズです。これを顕在化させることが重要であり、適切なアプローチが求められます。
- どのように(How): 商品やサービスを通じて課題を解決する方法です。これは差別化(ポジショニング)の要素であり、競合との差別性を明確にすることがポイントです。
1. 誰の(Who): 市場の理解とターゲティング
「誰の」にあたる市場は、製品やサービスの対象となる顧客群全体を指します。この段階では、市場の特性や潜在顧客のニーズを深く理解することが重要です。
具体例
- 市場の特性: 在宅勤務が増加している30代から40代のビジネスパーソン。長時間のデスクワークが日常化し、健康に関心を持つ層が増えている。
- 市場規模: 在宅勤務関連商品市場は急成長中。椅子、デスク、PC周辺機器などのニーズが拡大している。
- ターゲットセグメント: 健康を意識しているが、具体的な解決策をまだ探している層。
市場の把握では、「潜在顧客」と「顕在顧客」の割合を分析し、それぞれに異なるアプローチを展開することが求められます。
2. 何を(What): 消費者の問題を顕在化させる
「何を」は、消費者が抱える問題やニーズを指します。多くの場合、消費者は自身の問題を完全に認識しているわけではなく、これを顕在化させるのがマーケティングの第一歩です。
- 潜在的な問題: 長時間のデスクワークによる肩こりや腰痛の悪化。
- 顕在化の方法:
- 啓発型コンテンツ: 「悪い姿勢が肩こりを引き起こすメカニズム」を図解した記事や動画を提供。
- 感情に訴えるアプローチ: 「このまま放置すると、将来的にもっと大きな問題になるかもしれない」といった感情的共感を促す。
具体例
オフィスチェアの場合、問題を顕在化させるアプローチとして、「正しい姿勢を維持する重要性」を視覚的に伝える動画広告が有効です。これにより、消費者が「自分には問題がある」と認識し、解決策を探し始めるきっかけを作ります。
3. どのように(How): 差別化による問題解決
「どのように」は、顧客の問題を解決するための具体的なアプローチです。この段階では、商品やサービスの差別化(ポジショニング)を明確にし、競合との差を打ち出します。
差別化の要素
- 独自性: 他社にはない特許技術や機能性。例:「姿勢を自動で補正する特許技術」。
- 効用の強調: 商品を使用することで得られる具体的な結果。例:「肩こりが1週間で軽減」「集中力が向上」。
- 信頼性の確保: 科学的根拠や購入者の体験談
ポジショニングの具体例
- 製品の価値訴求: 特許取得済みの「自動姿勢補正機能」を強調し、「他社製品にはない独自の解決策」を打ち出す。
- 購入後の価値強化: 購入者向けに「正しい使い方をサポートするアフターサービス」を提供し、継続的な価値を実感させる。
WWHによる戦略の一貫性
WWHを基軸にした戦略では、以下の流れで顧客にアプローチします。
- 市場を理解し、ターゲットを明確化する(Who)
- 在宅勤務市場における健康志向の層をターゲティング。
- 消費者の問題を顕在化させる(What)
- 啓発コンテンツや感情に訴えるアプローチで、問題の自覚を促す。
- 差別化された解決策を提示する(How)
- 他社にはない機能と効用を強調し、ポジショニングを確立する。
定義の先にあるプロセス
しかし、ここで重要な実務的事実があります。
私たちが全国9地域の企業161社を対象に行った調査では、WWHの定義の明確さと売上実感との相関がほぼゼロでした。つまり、「うちは誰の何をどう解決する会社か」を明確に定義できていても、それだけでは売上には繋がらないということです。
では何が必要か。データが示したのは、WWHの定義が発信され、口コミや評価として認識され、信頼として蓄積された場合、経営成果への効果の78%がその経路を通じて届くということです。
定義は必要条件です。しかし十分条件ではない。
定義した内容が、以下のプロセスを通じて初めて経営成果に転換されます:
・形式化: WWHを言語化する ・明文化: 発信し、証拠として可視化する ・正統化: 外部から口コミや評価として認められる ・定着: 選ばれ続ける状態になる
定義があってもプロセスなければ、発信する内容がぶれ、蓄積されるべき信頼が散逸します。一方、プロダクトアウトのまま発信を続けると、「うちは○○を作っています」という企業視点の発信ばかりが並び、顧客の共感を得られません。
まとめ
WWHを活用したマーケティング戦略は、単なるフレームワークではなく、事業定義そのものです。それは「市場を理解し(Who)、顧客の課題を顕在化させ(What)、差別化された解決策を提示する(How)」という一貫性のあるプロセスを通じて、顧客のニーズを的確に満たします。
ただし、定義だけでは足りません。その定義が明文化され、外部から信頼として認識され、蓄積されるまでのプロセスが同じくらい重要なのです。
コンテンツが検索からオーガニックに流入するのは、このプロセスの最初のステップです。重要なのは、その先に「信頼資本形成」というより大きなサイクルが存在することを認識することなのです。
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