[食品製造小売]営業利益−400万円から+600万円へ|黒木勝巳マーケティング・広報事務所【InShift】

[食品製造小売]営業利益−400万円から+600万円へ

限られたリソースで顧客接点をつなぎ、小さな食品メーカーが黒字転換

背景と課題

栃木県で漬け物の製造・販売を手がける小規模企業。コロナ禍による店舗売上の減少などから営業赤字が続き、地元スーパーでは大手メーカーの商品との価格競争にも直面していました。隣に並ぶ大手メーカーの商品は、自社商品のほぼ半額。生産規模の違う大手企業と価格だけで競争しても、小規模企業に勝ち目はありません。

ネット販売にも取り組んでいましたが、大きな成果にはつながっていませんでした。さらに、社内にはマーケティングやWebを専門とする担当者もいません。限られた人員と予算の中で、何を優先するのか。そこから支援をスタートしました。

大手と価格で競争するのではなく、「選ばれる理由」をつくる

最初に考えたのは、広告を増やすことでも、SNSのフォロワーを増やすことでもありません。まず、「誰が、なぜこの商品を選ぶのか」を整理しました。

同社の商品には、大手メーカーの商品とは異なる特徴がありました。減塩のたまり醤油で漬け込んだ、塩分控えめでまろやかな味。年配の方だけではなく、子どもでも食べやすい商品です。そこで、商品そのものの特徴を伝えるだけではなく、「子どもにも安心して食べさせやすい、家族のための漬物」という顧客側から見た価値を明確にしました。商品のスペックを発信するのではなく、誰の、何を、どのように解決する商品なのか。ここを起点に、情報発信を組み直していきました。

SNSで大きく広げるのではなく、ネット上に情報を蓄積する

小規模企業には、人的リソースにも予算にも限界があります。SNS、SEO、動画、広告、EC、メディア対応。すべてに力を入れることは現実的ではありません。そこで重視したのは、SNSで一気に認知を広げることではなく、会社や商品について調べた人が、必要な情報へたどり着ける状態をつくることでした。

商品について。製造へのこだわりについて。食べ方について。店舗について。そこで働く人について。こうした情報を少しずつネット上へ蓄積していきました。SNSも、単なる拡散装置とは考えません。継続して情報を発信することで、ネット上に会社や商品の情報を増やし、Googleなどで検索された際にも、企業を理解するための材料が存在する状態をつくっていきました。

目的は、「いいね」やフォロワー数を競うことではありません。検索されたときに、きちんと情報がある会社になること。これを優先しました。その結果、約6カ月でホームページへのアクセスは約2倍になりました。しかし、ECサイトの売上増加は約10%程度。アクセスは増えたものの、ECの売上には十分つながっていませんでした。そこで、当初の仮説を修正しました。

「知らない」のではなく、「食べたことがない」

ネット上の情報を増やし、ホームページへのアクセスも増えた。それでも購入には十分つながらない。そこで考えたのが、「この商品は、Webだけでは違いを十分に伝えられないのではないか」という仮説でした。

漬物は、実際に食べれば味の違いが分かります。逆に、一度も食べたことのない商品を、ネット上の情報だけで買ってもらうことには限界があります。そこで、ECで直接購入してもらうことだけを追うのではなく、まず店舗へ来てもらい、実際に食べてもらうという方向へ切り替えました。

Google広告を「EC販売」ではなく「店舗への誘導」と定義

店舗への来店を増やすため、Google広告の運用を私が代行しました。広告費は、1日500円程度から。大きな広告予算を投じたわけではありません。ここでも重要だったのは、広告そのものではなく、広告に何をさせるのかという役割設定です。

広告からECサイトへ誘導して、その場で買ってもらうことを狙ったのではありません。広告の役割を、「商品の価値が最も伝わる場所である店舗へ顧客を連れてくること」と定義しました。店舗では、以前から漬物を使ったおにぎりなどの試食も実施していました。広告で店舗を知る。店舗へ来てもらう。実際に食べてもらう。そして、商品の違いを体験してもらう。

デジタル広告をデジタルの中だけで完結させず、リアルな商品体験へつなげました。ョンモデルが飲食業界で先駆的な取り組みであることを印象付けることに成功しました。

すべてを自社で抱えず、必要な部分だけ外部の力を使う

小規模企業では、「SNSもやらなければ」「広告もやらなければ」「SEOも必要」「動画も必要」と施策を増やすほど、社内の負担が大きくなります。この事例でも、すべてを自社で担ってもらったわけではありません。商品情報や会社の考え方など、社内だからこそ発信できることは社内から少しずつ発信してもらう。一方で、専門的な設定や継続的な調整が必要なGoogle広告は、私が運用を担当する。社内に残す仕事と、外部の専門家が担う仕事を切り分けました。重要なのは、たくさんのマーケティング施策を実施することではありません。限られたリソースを、顧客行動のどこに使うのかを決めることです。

ネット、広告、店舗、試食、口コミを一つの流れにする

さらに、店舗ではGoogle口コミへ誘導するQRコード付きショップカードも活用しました。こうして、ネット上の情報→検索・広告店舗試食購入口コミという顧客接点を少しずつつなげていきました。

一つひとつは、決して特殊な施策ではありません。重要だったのは、それぞれをバラバラのマーケティング施策として考えなかったことです。顧客が、知る。調べる。店舗へ行く。食べる。購入する。評価する。その行動に合わせて、必要な接点だけを配置しました。施策を増やすのではなく、顧客接点をつなぐ。これが、この支援の中心でした。

全国放送への露出。そして営業黒字へ

こうした活動を1年以上続ける中で、同社の商品が全国放送のテレビ番組で紹介されました。放送後には注文が急増し、一時は在庫がなくなるほどの反響となりました。ただし、テレビ出演だけで営業利益が改善したわけではありません。ネット上の情報。店舗への誘導。試食による商品体験。口コミ。そして、商品そのものの魅力や日々の販売活動。複数の要素が積み重なった中で、大きなメディア露出も加わりました。そして支援開始から2年目の決算。営業利益は、約−400万円から約+600万円へ転換しました。

黒字化によって、経営者の意識も変わった

成果は数字だけではありませんでした。70代の経営者は、赤字が続いていた当時について、「支払いのことばかり考えていた」と話していました。黒字転換後には、「そこから解放されて、良いものを作りたいという意欲がまた湧いてきた」と語っています。

情報発信を手伝っていたご家族も、その後会社へ入り、事業を支えるようになりました。売上や利益の改善によって、次の事業を考えられる状態が生まれたことも、大きな成果だったと考えています。

小さな会社は、すべてをやる必要はない

この事例で重要なのは、Instagramの使い方でも、Google広告の設定方法でもありません。小規模企業には、大企業のような人員も広告予算もありません。だからこそ、何をするか以上に、何をしないかを決めることが重要です。大手メーカーと価格で競争しない。SNSの数字を追いかけすぎない。ネットだけで販売を完結させようとしない。すべてを自社で抱えない。その代わり、自社の商品が最も評価される顧客は誰か。その顧客は、購入までに何を知る必要があるのか。どこで商品の価値を最も理解してもらえるのか。を考えます。そして、そのために必要な情報と顧客接点だけをつないでいく。

限られたリソースしかない中小企業だからこそ、施策を増やすのではなく、顧客行動に沿って必要なものを選択する。広報とマーケティングを分断せず、限られた経営資源を成果につながる顧客接点へ集中させる。それが、この事例から得られた一つの答えです。

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