3. 人はどのように企業を知り、調べ、選ぶのか(CDP) ― なぜ「良い商品」が、ネットの海で無視されるのか
「いいモノを作れば売れる」「誠実にやっていれば誰かが見てくれる」。 これは日本の職人精神における美徳ですが、現代のマーケティング、特にデジタル空間においては、この考え方が最大の「足かせ」になることがあります。
なぜなら、現代の消費者は、企業が発信する情報の99%をスルーしているからです。 彼らが唯一反応するのは、自分の抱える「問題」に対する「解決策」が提示された瞬間だけです。
ここでは、診断シートの「Q1. WWHの定義」と「Q4. コンテンツの質」が、なぜ現代の顧客獲得において決定的な意味を持つのか。消費者の意思決定プロセス(CDP)を手に解説します。
「一方通行」から「マッチング」へ:情報流通の構造変化
まず、私たちが戦っている土俵がどのように変化したのか、その構造を理解する必要があります。
下記の図をご覧ください。かつての「マスメディア型(上段)」は、企業が一方的に情報を浴びせる「雨」のような構造でした。ここでは「なんとなく知っている」状態を作れば勝ちでした。 しかし、現代の「インターネット型(下段)」は全く異なります。ここで起きているのは、一方的な放送ではなく、ユーザー自身が欲しい情報を能動的に取りに行く「探索」です。
ネット空間において、企業と顧客の関係は「放送」ではなく「マッチング」になりました。 マッチングアプリで「誰でもいいから付き合いたい」と言う人が選ばれないのと同じで、ビジネスにおいても「誰の・何を」解決するのかを定義していない企業は、ネットの海において「存在しない(検索されない)」のと同じことになってしまうのです。
診断シートの「Q1. WWHの定義(誰の・どんな悩みを・どう解決するか)」は、単なるスローガン作りではありません。このマッチング社会において、顧客に見つけてもらうための「必須のタグ付け」、顧客と企業を繋ぐ合言葉です。

消費行動の本質は「買い物」ではなく「問題解決」
では、ユーザーは何を求めて検索や探索を行っているのでしょうか。 ここで重要になるのが、「消費行動=問題解決」という定義です。
多くの事業者は「商品を売りたい」と考えます。しかし、顧客の心理は異なります。
- 消費者視点: 購買とは、「抱えている問題を解決する手段」である。
- 事業者視点: 販売とは、「問題解決手段の提供」である。

例えば、「整体」と検索する人は、整体そのものが目的ではありません。「腰が痛くて仕事に集中できない」という問題(Step 1)があり、それを解決するために検索行動を起こしています。
診断シートの「Q4. コンテンツの質」で、「顧客の問題(悩み)にふれ、その解決策として商品を提示しているか」を問うている理由はここにあります。 単に「ウチの技術はすごい(機能)」だけを叫んでも、顧客は「それは私の腰痛を治してくれるの?(問題解決)」という答えが見つからなければ、比較検討の候補にすら入れないのです。
「再検索」という無言の検閲
この「問題解決」の視点を持つと、なぜ顧客が「再検索(Re-search)」をするのかが見えてきます。
ある調査では、行きたい店を見つけた後に「さらに詳しく検索してリサーチしますか?」という問いに対し、約80%が「はい」と回答しています。 これは、顧客が「失敗したくない(=問題を確実に解決したい)」という強い防衛本能を持っているからです。

「テレビで見た」「知人に聞いた」。これらは強力なきっかけですが、顧客は必ずその後に「裏取り」を行います。 この再検索のフェーズで、Webサイトに「私のための解決策だ」と思える情報(Q4の内容)が明文化されていなければ、顧客は無言で立ち去ります。アクセスはあるのに来店につながらないの正体は、この「問題解決の提示不足」にあるのです。
SNSのパラドックス:潜在的な「問題」にフックをかける
では、InstagramやYouTubeのような「暇つぶし(エンタメ)」の場ではどうでしょうか? ここでも「問題解決」の論理は生きています。
ユーザーは顕在的には楽しんでいますが、潜在意識下では常に「もっと可愛くなりたい」「生活を便利にしたい」という願望(未解決の問題)を抱えています。 ここに、脳科学の「カラーバス効果(意識している情報は目に飛び込んでくる)」が働きます。
- 状況: なんとなくリール動画を見ている。
- 遭遇: 「くせ毛を活かしたショートカット」の動画が流れる。
- 反応: 諦めていた「髪のまとまりにくさ(潜在的問題)」にフックし、指が止まる。
SNSにおいて「エンタメを楽しんでいるのにモノが売れる」のは、その投稿がユーザーの「潜在的な問題」を顕在化させ、その解決策を提示したからです。 ここでもやはり、Q1の「WWH」が明確でなければ、ユーザーの足を止めることはできません。
定義なき発信は、届かない
Googleの検索エンジンも、SNSのレコメンドAIも、そして人間の脳も、基本的には「問題と解決策のマッチング」を行っています。
AIは「このユーザー(Who)は、こんな悩み(What)を持っている」と予測し、それに合致するコンテンツを推薦します。 この時、企業側がQ1(WWH)を定義し、Q4(悩みへの言及)を行っていなければ、AIにとっては「分類不能なノイズ」であり、人間にとっては「自分に関係ない情報」としてスルーされます。
診断シートの「Q12. 指名買い」のスコアを上げる唯一の方法。 それは、自社を単なる「商品の売り手」ではなく、「顧客の問題を解決する専門家」として再定義し、その解決能力(証拠)をデジタル空間に明文化し続けることです。
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