4. なぜ正当性が選択に影響するのか(制度論)― 人は「正しさ」ではなく「正当なもの」を選ぶ
「商品は良いのに売れない」。 この悩みを抱える企業の多くは、品質や価格の競争で負けているのではありません。「市場に参加するための資格(チケット)」を持っていないがゆえに、比較検討の土俵にすら上がれていないのです。
この「参加資格」の正体こそが、社会学の制度論(Institutional Theory)で語られる「正統性(Legitimacy)」です。
本稿では、なぜ顧客は「正しいもの」ではなく「正統なもの(ちゃんとして見えるもの)」を選ぶのか。その行動原理と、それが次章で解説するGoogleの評価基準「E-E-A-T」とどう密接に関わっているのかを解説します。
「ちゃんとしている」が信頼の条件
制度論の核心は、「組織は効率性だけでなく、社会的な期待(=制度)に合わせて『正統性』を獲得しようとする」という点にあります。
例えば、あなたが重要な取引先を探しているとします。
- A社: 技術は世界一だが、Webサイトがなく、連絡先は個人の携帯番号とGmailのみ。
- B社: 技術は標準的だが、しっかりしたコーポレートサイトがあり、実績や所在地が明記されている。
多くの人は、リスクを避けるためにB社を選びます。 これは「企業ならWebサイトがあるはずだ」「連絡先は固定電話や独自ドメインであるべきだ」という社会的な「型(制度)」があり、それに適合している(同型化している)ことで、無意識に「この会社はちゃんとしている(正統性がある)」と判断しているからです。
この「ちゃんとしている感」こそが、顧客が「品質を確認するコスト」を省略するためのショートカットになります。
3つの「正統性」と診断シートの意図
W.R. Scottは、この正統性が形成される要素を「3つの柱」として整理しました。本診断シートの設問は、貴社がこの3つの側面で「信頼の土台」を築けているかを確認するために設計されています。
1. 規制的柱(Regulative):ルールに従っているか?
「法律や公的ルール」に基づく正統性です。 診断シートの「Q5. 外部評価」における「公的機関との連携」や「認証取得」は、この柱を強固にし、顧客の「怪しい会社ではないか?」という不安を払拭します。
2. 規範的柱(Normative):社会的に適切か?
「業界の標準や道徳」に基づく正統性です。 診断シートの「Q6. 口コミ」や「紹介」は、市場(他者)が貴社を「推奨に値する適切な企業だ」と認めた証拠であり、強力な購入の後押しとなります。
3. 文化的-認知的柱(Cultural-Cognitive):当たり前の存在か?
「疑う余地のない、当たり前の存在」として認識される状態です。 ここを目指すのが広報のゴールであり、「Q12. 指名買い」が増えている状態とは、この認知的な正統性が確立された証拠でもあります。

制度論からE-E-A-Tへ:ネット戦略の正体
ここで重要なのは、この「人間が『ちゃんとしている』と感じる判断基準(制度論)」と、「Googleが『検索順位を上げる』判断基準(E-E-A-T)」は、本質的に全く同じであるという点です。
Googleはアルゴリズムを使って、人間社会の「正統性」をデジタル上で再現しようとしています。
- 社会での「専門家の推奨(規範的柱)」
- ➡ Googleでの「専門性(Expertise)」「権威性(Authoritativeness)」
- 社会での「実績の公開(規制的柱)」
- ➡ Googleでの「信頼性(Trustworthiness)」
つまり、Web戦略とは、小手先のテクニックではありません。 リアルな社会で築いた「正統性(Q5・Q6)」を、デジタル空間の共通言語(E-E-A-T)に翻訳し、Googleとユーザーの両方に「この会社は信頼に値する」と証明するプロセスそのものなのです。
「テレビで見た」「知人に聞いた」。これらは強力なきっかけですが、顧客は必ずその後に「裏取り」を行います。 この再検索のフェーズで、Webサイトに「私のための解決策だ」と思える情報(Q4の内容)が明文化されていなければ、顧客は無言で立ち去ります。アクセスはあるのに来店につながらないの正体は、この「問題解決の提示不足」にあるのです。
正統性がE-E-A-Tの土台になる
「良いモノを作っていれば売れる」時代は終わりました。 まずは社会的な「正統性」という土台を固めること。そして、それをデジタルの文脈(E-E-A-T)に合わせて発信すること。
次章では、この「アナログな信頼」を、いかにして「デジタルの評価(検索順位やレコメンド)」へと変換するのか。その具体的なメソッドであるE-E-A-Tについて詳しく解説します。
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