ハック型マーケティングを選ばない理由
マーケティングの世界には、「短期間で成果を出す」ためのハック型手法が数多く存在します。
広告費を集中投下し、反応率を最大化し、KPIを一気に作る。依頼される側としては、成果を出さなければ契約が続かない以上、合理的な判断でもあります。
しかし、地方企業や中小企業の現場に長く関わる中で、私はこのやり方に強い違和感を持つようになりました。
理由は単純です。
地域経済は、クリック率や瞬間的な反応だけでは回っていないからです。

地方企業がすでに持っている最大の資産は「社会関係資本」
多くの地方企業は、すでに強いボンディング(内部の信頼関係)を持っています。
- 常連客との関係
- 取引先との長年の付き合い
- 地域内での評判
- 家族経営や代々続く信用
これらは貸借対照表には載りませんが、何十年、何百年という時間をかけて積み上げられてきた、極めて価値の高い資産です。
ハック型マーケティングは、この資産を前提に設計されていません。
「今すぐ反応する層」だけを刈り取りにいくため、短期的な売上は作れても、既存の信頼構造と噛み合わず、現場や顧客関係に歪みが生じることも少なくありません。
ラウドアダプターではなくサイレントマジョリティに
多くの施策は、声が大きく、反応が早い層、いわゆるラウドアダプターを前提に設計されています。
しかし、実際の購買の重心は、もっと静かな場所にあります。
- SNSでは発言しない
- いいねもしない
- 周囲の評判を見て、静かに判断する
- 一度選ぶと長く付き合う
このサイレントマジョリティこそが、地方経済を実際に支えている中心層です。
私は、この層が「安心して選べる状態」を設計することこそが、マーケティングの本質だと考えています。
ボンディングがあるから、倫理観の高い経営が成立する
地方企業のもう一つの大きな強みは、「倫理がコストではなく、経営構造の一部として機能している」点です。
地域に根ざした事業者は、
- 顔が見える顧客
- 長年の取引先
- 地域内の評価ネットワーク
こうしたボンディングの中で経営しています。
この構造では、不誠実な行動はすぐに跳ね返ってきます。
短期的に儲かる選択であっても、信頼を失えば事業は続かない。だからこそ、
- 無理な売り込みをしない
- 品質をごまかさない
- クレーム対応を誠実に行う
- 約束を守る
こうした「当たり前の倫理」が、自然と経営判断に組み込まれます。
私は、この倫理が埋め込まれた経営構造そのものが、地方企業の最大の競争優位だと考えています。
ボンディングを生かしながら、ブリッジングを少しずつ作る
私の方法論はシンプルです。
- 既存の信頼(ボンディング)を壊さない
- そこに外部との接点(ブリッジング)を少しずつ足す
- 派手な拡張ではなく、持続できる拡張を設計する
広告やSNSは「拡声器」ではありません。
既存の信頼構造と、新しい顧客層や外部評価をつなぐ接続装置として使います。
バズを狙うのではなく、検索、口コミ、UGC、生成AI、メディア露出などを通じて、静かな推薦構造を積み上げる。
時間はかかりますが、地域の信頼資本と噛み合ったとき、売上、指名、紹介、採用が同時に改善する状態が生まれます。
成果とは、短期数字だけではない
短期KPIを最大化するマーケティングを否定するつもりはありません。
ただし、地方企業にとって本当に重要なのは、
- 安定した来店
- 指名検索の増加
- 紹介の自然発生
- 採用の改善
- 経営の持続性
こうした「構造的な成果」です。
私は、派手な数字を作る人ではなく、
信頼が溜まる構造を設計する側に立ちたいと考えています。
ラウドな1割を追いかけるより、
静かな7割が動く条件を整える。
これが、私がハック型ではなく、社会関係資本と消費行動論を起点としたマーケティングを選ぶ理由です。
