地方創生を考える ― 「流通」と「主体形成」がつくる未来
自治体経営と地域経営の違いを考える
地方創生の取り組みが本格的に進み始めてから、約10年が経過しています。少子高齢化と人口減少という大きな課題に向き合いながら、地域の活性化を目指す施策が次々に導入されてきました。しかし、東京一極集中の是正や地方の人口流出防止が十分に実現しているかという点では、まだ課題が多いように感じられます。
これまでの地方創生は、主に「課題解決」を軸に進められてきた印象があります。具体的な指標を掲げ、それに基づく計画や成果を評価するアプローチは、目標を明確化し、進捗を管理する上で有効であるように見えます。ただ、その成果が「住民の生活が豊かになった」と実感される形で結びついているかを振り返ると、疑問が残る場面もあるのではないでしょうか。地方創生は、単なる課題解決にとどまらず、住民や地域の関係者が主体的に目標を設定し、行動できる仕組みをつくる――いわゆる「主体形成」にも目を向けるべき段階に来ているようにも思われます。

NPM的アプローチの可能性と限界
地方創生の多くの取り組みは、ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)的なアプローチを基盤としています。この考え方では、行政運営に市場原理や成果主義を導入し、効率性を高めることが目指されています。たとえば、KPI(重要業績評価指標)を設定し、それに基づく施策の進捗を管理する方法は、限られた資源の中で成果を最大化する手法として広く採用されています。
一方で、NPM的アプローチには「住民が客体化される」という課題も指摘されています。住民が「サービスを提供される側」として扱われることで、地域づくりへの主体的な関与が薄れ、行政が主導する施策に依存する形になる場合もあるのではないかと考えられます。課題解決の枠組みが、「与えられた目標に向けて動く」という一方向的な関係を生むことに留まらないかどうか――その視点も改めて考える余地があるのではないでしょうか。
主客の逆転 ― 「流通」が生む主体形成の可能性
こうした課題に向き合う中で、「主客の逆転」という視点が重要になるように思われます。ここでいう「主客の逆転」とは、住民が単なる「客体」として施策を受ける存在から、地域づくりに積極的に関与する「主体」へと変わることを意味します。そして、この逆転を支える仕組みとして、「流通」という考え方が有効ではないかと考えられます。
「流通」とは、地域内外の知識や資源、人々をつなぐ存在を指します。それは単にモノやサービスを届ける役割を果たすだけでなく、地域と外部の橋渡し役として、価値の共有や行動の触媒となる存在です。流通が機能することで、自治体も住民も対等な「主体」として活動しやすくなる可能性が広がるのではないでしょうか。
たとえば、地域の特産品や技術を外部市場に届ける過程で、地域住民自身がその価値を再認識する機会が生まれるかもしれません。また、外部からの知識や視点が地域に流入することで、住民が自分たちの地域の魅力や課題を新たに捉え直すきっかけとなるのではないでしょうか。このように、流通的な存在が活躍する場面は、主体形成の鍵となり得るのではないかと感じます。
水平的な関係性がもたらす新しい地域づくり
流通が地域づくりにおいて重要な役割を果たす場合、従来のような垂直的な関係性――すなわち、行政が施策を提供し住民がそれを受け取るという関係――から、より水平的な連携へと進化する可能性が考えられます。
水平的な関係性が広がることで、自治体は地域全体の一員として住民と共に考え、行動する姿勢を持つことが期待されます。一方、住民は、自分たちの声や行動が地域づくりに反映される実感を得ることで、さらに積極的に関与しようとする動機を持つかもしれません。このような双方向の関係性が生まれると、地域の未来を共にデザインする基盤が整うように思われます。
地域社会の未来をデザインする
地方創生の取り組みがこれからも地域の可能性を広げるためには、「課題解決」だけに焦点を当てるのではなく、「流通」を通じた主体形成を考える必要があるのではないかと感じます。地域が持つ価値を最大限に引き出し、それを内外に伝える仕組みをデザインすることは、持続可能な地域社会への大きな一歩となるかもしれません。
自治体と住民が共に主体となり、新しい価値を創造する取り組みは、単なる課題解決を超えた豊かな未来を描く可能性を秘めています。この先、地方創生がどのように進化し、地域社会の未来がデザインされるのかを、引き続き考え続けていきたいと思います。
