[飲食店チェーン]ターゲット設定から海外展開までの記録
広報とマーケティングをベースに成長を実現
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背景と課題
2017年、首都圏で十数店舗のラーメンチェーン、数店舗の居酒屋とスイーツ業態を展開する飲食店。主力業態であるラーメン店はかつてほどの勢いがなく、前年比85%という大幅な売上減少に陥っていました。キャッシュフローも悪化し、広告やプロモーションに充てる予算がない状況。この結果、グルメサイトへの掲載やポスター制作、外部の看板広告の活用といった手段を取れず、自社で可能な範囲での施策が求められました。
従業員の士気も下がり、店舗運営の要となるQSC(品質、サービス、清潔感)の乱れが顕著になっており、経営全体における負のスパイラルが見られました。こうした状況下で、限られたリソースを最大限に活用し、売上回復とブランド再構築を目指す必要がありました。

ターゲットを絞った戦略とその効果
同社が採用したのは、当時飲食店ではほとんど採用されていなかったサブスクリプションモデル。導入にあたっては、情報感度が高く経済的なメリットを重視する「学生」や「サラリーマン」にターゲットを絞りました。このターゲット設定により、明確で効果的なメッセージ発信が可能となり、顧客が「どれだけ得をするか」を具体的な金額メリットとして提示するプレスリリースを作成しました。
しかし、ターゲットを絞った情報発信が「他の層に届かない」「ターゲット外の層が来店しない」という意味ではありません。実際には、情報が広く拡散されたことで、顧客の幅も広がりました。たとえば、男性8割・女性2割という来店者比率の中で、意外にも女性顧客がチャーシューメンといった食べ応えのあるメニューを注文するケースが多く見られました。このことから、ターゲットを絞った戦略が結果的に多様な層への訴求力を持つことを証明しました。
情報感度の高い顧客層がSNSや口コミを通じてさらに情報を広げたことで、ターゲット外の層にもリーチし、新たな顧客層を取り込むことに成功しました。
ロジャースのイノベーター理論を基盤とした拡散設計
ターゲット設定と同時に、情報拡散においてはロジャースのイノベーター理論を活用しました。この理論では、情報感度の高い「イノベーター層」や「アーリーアダプター層」にアプローチし、彼らを起点として情報を社会全体に広げる仕組みを設計します。
実際には、影響力のある経営者やオピニオンリーダーを取り込み、SNSや大手ニュースサイト、テレビ番組などの多様なメディアで取り上げられることで、ターゲット層にとどまらない広範な拡散を実現しました。この過程で、ラーメンの強烈なビジュアルやサブスクリプションのユニークなアイデアが話題性を持ち、情報が自発的に拡散される流れを作り出しました。
広報力とマーケティングを融合したプロジェクト
マーケティングと広報を統合し、顧客メリットを訴求するだけでなく、メディアや取材陣にとって使いやすい素材や情報を提供しました。たとえば、料理写真やアプリの開発画面を公開することで、メディアが記事を作りやすい環境を整備しました。
また、SNSや公式アカウントでの情報発信を徹底し、ターゲット層の多くが利用するチャネルに的確に情報を届けることで、情報拡散の効率を最大化しました。このような広報とマーケティングの融合が、限られたリソースの中で最大の成果を生み出す要因となりました。
大規模メディア露出の成果
戦略の結果として、以下のような成果が得られました:
- 大手ニュースサイトのトップ記事掲載(2回)
- SNSランキング1位を獲得
- 約9億円相当の広告換算費を記録
このメディア露出は、サブスクリプションモデルが飲食業界で先駆的な取り組みであることを強く印象付けることに成功しました。
ターゲット以外の層への広がりと社会貢献
当初は批判もありましたが、「サブスクリプションが生活コストを削減し、手頃な価格でしっかりした食事を提供する」という社会的意義を発信することで、徐々に支持が広がりました。最初は学生やサラリーマンに焦点を当てたものの、情報が自然に広がる中で、幅広い顧客層を取り込むことができました。
インバウンド施策と海外展開
情報が国内外で注目を集め、インバウンド施策も成功。特に海外メディアでの発信が話題となり、外国人観光客の来店増加につながりました。この成功を受け、中国への出店も実現。現地のニーズに対応したメニューやプロモーションを展開し、海外市場での基盤を築くことに成功しました。
成果と学び:広がるターゲットと多様な層の取り込み
一連の施策により、ターゲットを絞りつつも情報が広範に拡散され、幅広い顧客層の取り込みが実現しました。特に、男性主体の顧客層の中で女性の来店が増加するなど、想定外の成果も得られました。この事例は、ターゲット設定と広報戦略のバランスを取ることで、最大の成果を引き出すモデルケースとして、多くの業界に示唆を与えるものとなっています。
